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秋田地方裁判所 昭和53年(ワ)388号 判決 1980年8月25日

原告

地産トーカン株式会社

右代表者

宮本恵一

株式会社三博商会

右代表者

竹井博康

右原告ら訴訟代理人

磯村義利

伊沢安夫

被告

象潟町

右代表者町長

土門三之丞

右訴訟代理人

深井昭二

塩沢忠和

主文

一  被告は、原告地産トーカン株式会社に対し、同原告が別紙物件目録(一)、(二)記載の土地三七筆につき、別紙抵当権目録(一)記載の抵当権設定登記並びに根抵当権設定登記及び同変更登記を抹消したうえ、被告に所有権移転登記手続をするのと引換えに、金二億八六一四万一五四四円及び内金二億〇八九八万八一九一円に対する昭和四七年一一月二九日以降、内金五一五〇万円に対する同年一二月七日以降、内金二五〇〇万円に対する同四八年五月三〇日以降、内金五二万七五〇〇円に対する同月三一日以降、内金一二万五八五三円に対する同五〇年五月二八日以降各支払いずみまでそれぞれ年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告株式会社三博商会に対し、同原告が別紙物件目録(六)記載の土地一九筆につき別紙抵当権等目録(二)記載の抵当権及び根抵当権各設定登記を抹消したうえ被告に所有権移転登記手続をするのと引換えに、金一億一二五八万〇九三二円及び内金一八〇〇万円に対する昭和四六年一二月二二日以降、内金八七六二万七七九〇円に対する同四七年一二月二一日以降、内金五八九万五〇四三円に対する同四八年四月二八日以降、内金六八万三九五二円に対する同年九月七日以降、内金三七万四一四七円に対する同五〇年五月三一日以降各支払いずみまでそれぞれ年六分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因124項の事実<編注・本件売買契約の締結、所有権移転登記義務の履行、売買代金の支払>及び同3項(一)の事実並びに同項(四)の事実中、秋田県由利郡象潟町横岡字上の山四番一二、一四、一六、二四ないし三一、二一、一八の各土地につき昭和四八年一一月ころ、原告三博、訴外地産、被告の三者間で、右土地を同所七番二、三の土地(第六物件番号1516)と交換することを合意し、同月二〇日七番二、三の土地につき訴外地産名義に所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば次の事実が認められる。

1  第五物件番号2の一筆の土地は秋田県由利郡象潟町横岡字上の山四番一、一二ないし一七、二六ないし三一の各土地に(四番一、一三、一五、一七は第六物件番号2、5ないし7)、同3の一筆の土地は同所四番三、二〇ないし二三、二五の各土地に(四番三、二〇、二二、二三は同番号3、9ないし11)、同4の土地は同所四番八、一八、一九、二四の各土地に(四番八、一九は同番号4、8)それぞれ分筆及び地積更正により変更されたこと、

2  第五物件番号9の土地は第六物件番号18に地積更正されたこと、

3  原告三博は昭和四八年三月から昭和四九年五月までの間に第五物件全部を訴外地産に売り渡したが、第五物件番号2の土地から分筆された四番一二、一四、一六、二六ないし三一の各土地、同3の土地から分筆された四番二一、二五の各土地、同4の土地から分筆された四番一八、二四の各土地はいずれも農業振興地域に指定されていて開発不能であることが判明したので、履行の追完として前記のとおり、原告三博、訴外地産、被告の三者間において、右の各土地を前同所七番二、三の各土地と交換することを合意し、昭和四八年一一月二〇日右の各土地につき被告から直接訴外地産名義に所有権移転登記手続がなされたこと、

4  以上の経緯により原告三博と被告との間の売買の目的物件は第五物件より第六物件に変更されたが、追完のあつた七番二、三の各土地も稲倉嶽地区に属すること、

以上の事実が認められ、右の認定に反する証拠はない。

二請求原因5項(二)の事実<編注・契約解除条項の内容>は当事者間に争いがなく、<証拠>を綜合すると次の事実が認められる。

1  原告トーカンは、昭和四六年被告の誘致に応じ、秋田県由利郡象潟町に所在する鳥海山西麓地区において、ボーリング場、ホテル、スキー場及びその関連施設並びに別荘地造成等の総合開発事業を計画したこと、

2  原告トーカンは右開発事業用地を七地区に区分して買収することとし、被告との間の売買契約中において、稲倉嶽地区については原告トーカンの提携企業体である原告三博と契約することを約定し、右の約定を受けて原告三博と被告との間における売買契約書中において、稲倉嶽地区の土地の売買は、原告トーカンと被告との間の昭和四六年一二月四日付仮契約中に予定された第二次用地の一部として買受けるものであることを確認し、この契約に定めのない事項は右仮契約によるものとすることを約定したこと、

3  右のような経緯により、原告トーカンは第一ないし第四の物件を、原告三博は第五物件をそれぞれ本件開発事業用地として被告より売買によつて取得したもので、原告トーカンと被告との間の売買仮契約中、第三物件はボーリング場用地として、第四物件はホテル建設用地として使用することが確定していたが、第一、第二、第五物件については国定公園内の特別地域に指定されているため、右地域の開発につき自然公園法一七条三項に基づく県知事の許可を必要とする関係上、具体的な開発行為については当事者間の協議に基づいてすすめられることとされ、本件各売買契約当時においては、概括的に小滝・霊峰地区にスキー場を、関・中の沢地区にゴルフ場を、稲倉嶽地区に観光牧場を開設することを予定していたほか、買収にかかる全地域について適地を選定し別荘地の造成を計画していたこと、

以上のとおりであり、右認定の事実によれば、原告トーカン、原告三博による土地の買収は鳥海山西麓地区をスキー場、ゴルフ場、観光牧場その他のレジャー関連施設の建設と別荘地造成のため、総合的に開発することを目的とするもので、右開発事業計画の遂行のためには、開発行為につき予め秋田県知事による自然公園法一七条三項所定の許可のあることを必要とするところ、原告トーカンと被告との間の仮契約書中、「国定公園内の開発行為」と題し、契約用地のうち国定公園の指定を受けている用地については、被告の責任において国定公園内の開発許可を得ることがこの契約目的を達成する為の必須要件であることを被告、原告トーカンは再確認し、互いに協力してこの開発事業の円滑化を計るものとする(第九条5項)旨、「乙の無過失解除権」と題し、第九条5項に定める関係庁の許認可事項は、鳥海山西麓地区の開発事業推進上必要欠くべからざる基本的要件につき、万一当該要件が充足されないときは原告トーカンに過失なく、随時この契約の一部又は全部を解約することができるものとする(第一二条一項)旨約定され、原告トーカンと被告との間の象潟契約書及び原告三博と被告との間の売買契約書中にも同旨の約定がなされていることは当事者間に争いがないところであるから、右争いのない売買契約条項に、前記認定の事実を綜合して考えると、右の約定は第一、第二、第五物件において行う開発行為につき県知事の許可を受けることができず、そのため本件開発事業計画の遂行に支障を来し、その結果土地買収の目的を達することが不可能または著しく困難となつたときは、売買契約の一部又は解除し得ることを約定したもので、原告トーカンによる第一、第二物件の買収と原告三博による第五物件の買収とは、開発事業計画の遂行に障害を生じたか否かを判断するうえで一体をなすものと考えるべきである。

三ところで、原告らが、いずれも昭和五三年九月一六日被告に到達した内容証明郵便をもつて、原告トーカンは第一、第二物件について、原告三博は第六物件について各売買契約を解除する旨の意思を表示したことは当事者間に争いがない。そこで以下右契約解除の効力について検討する。

1  <証拠>によれば次の事実が認められる。

(一)  原告トーカンは売買契約中に予定された開発事業計画の具体化のため、被告との協議に基づき昭和四八年一月までに開発基本計画書(甲第一四号証の一、二)を作成したが、右基本計画は鳥海山西麓の標高約四〇〇メートルから九〇〇メートルの地域におけるスポーツレジャー施設の建設、観光施設の建設、別荘地の開発、自然環境の保護育成を骨子とするもので、別荘地としては小滝・霊峰地区、本郷地区、関・中の沢地区に五〇万坪の区域にわたり、一区画一〇〇〇平方メートル(三〇〇坪)平均により一般分譲するほか、企業向保養地として特別区画の造成を計画し、昭和四八年より昭和五三年までの間レジャー観光施設の建設計画と併行して行うことを予定していたこと、

(二)  原告トーカンは右開発事業計画全般について県当局による検討と指導を求めるため、昭和四八年二月一五日、右開発事業計画書を秋田県知事宛てに提出したところ、同年一二月二八日県知事は原告トーカンに対し、当該地域は鳥海国定公園のすぐれた自然景観を構成する重要な地区となつているので、この地区の開発にあつては、自然公園法二条六号に規定する公園事業以外の事業は原則として認めない方針であり、開発事業計画中、別荘分譲事業を除くものについては具体的な計画の提示あり次第検討する旨の回答をなしたこと、

(三)  右の回答は、鳥海国定公園が山麓から中腹にかけての広大な裾野と日本海の眺望を重要な景観要素とすることに鑑み、標高六〇〇メートル以上の開発及び雄大な裾野の形状を変更し、裸地化するような開発行為は一切認めないとする県当局の方針に基づくものであり、本郷地区、小滝・霊峰地区、関・中の沢地区における別荘地の造成は、右基本方針に抵触し認められないとする趣旨であること、

(四)  右県知事による回答がなされるまでの間、原告トーカン及び被告象潟町関係者と県当局との間に数次にわたり折衝がなされたが、その過程においても公園事業の執行として行う場合以外に同法一七条三項所定の行為を行うことは原則として許されないことは明示されていたこと

以上のとおりである。

2  原告らは、原告トーカンによる前記基本計画書の提出は自然公園法一七条三項所定の許可申請にあたり、これに対する秋田県知事の回答は右許可申請の一部却下にあたる旨主張するのであるが、自然公園法一七条三項の規定による許可申請手続は、同法施行規則第一〇条所定の事項を記載し、かつ図面を添付した申請書を提出してなすことを必要とするところ、前記基本計画書は書面の記載内容自体に徴し、単に全体的な開発事業計画の概要を記載したに止まり、行為の場所の特定、行為の施行方法等、前記施行規則に定める所要事項の記載及び図面の添付を欠くのみならず、<証拠>によれば、右計画書添付の県知事宛の書面も県の指導と検討を求める趣旨のもので、前記計画書の提出をもつて許可申請があつたものとは到底認め難く、これに対する知事の回答も許可申請に対する一部却下処分としてなされたものではなく、行政指導として行われたものであることは<証拠>に照らして明らかであり、前記原告らの主張にそう<証拠>は採用し難い。

3  しかしながら、前記認定の事実に徴すると、かりに原告らが右県知事による回答後、本郷地区、小滝・霊峰地区、関・中の沢地区における別荘地の造成行為につき、適式な許可申請手続をなしたとしても、県知事の許可を得られないことは最早確定的となつたものとみるべきである。

四そこで次に別荘地の造成行為につき県知事による許可の得られないことを理由として、本件各売買契約を解除することの当否について判断する。

1 <証拠>によれば次の事実が認められる。

(一) 第一、第二、第五物件における別荘地の造成は、レジャー、観光施設の開設と併せて、本件各売買契約中にも本件開発事業計画の一環として明記されているところであり、原告らと被告との間の協議に基づき後日適地を選定し、優先的に開発事業に着手することが予定されていたもので、被告は「鳥海山有料道路沿線保護利用計画(秋田県案)鳥海国定公園区域保護利用計画(象潟町案)」と題する書面(甲第四五号証の二)中、宅地、別荘地造成のための開発事業に触れ、「分譲を目的とした工作物の敷地造成について昭和四〇年五月二八日国発第三九一号国立公園局長通知によつて許可申請に対し指導し処理することとされている。申請者が指導事項の範囲内において行う限りにおいては許可すべきものと理解され、分譲を目的とすることだけを理由として不許可とすることは求められていないと理解される。自然公園地域内では別荘地を認めるべきではないとの説があるが、本町では公園区域外は大部分が農業振興地域として農業開発用地とされ、事実上公園区域外には別荘用地は皆無の状態である。また景観、気候等別荘地としての条件も公園区域内が秀れており、土地利用の面からも区域外は農業開発適地であり、未利用地であつた公園区域こそ別荘地用として高度利用を図ることは本町の地域開発政策として当然のことである」旨被告の見解を明らかにし、自然公園地域内における別荘地の造成については、前記国立公園局長通知に示された基準の範囲内で別荘地の造成行為が行われる限り、別荘地造成のための開発事業計画自体が全体として不許可となることはあり得ないと確信していたこと

(二) 原告トーカンは企業利益の面より土地の買収及びレジャー観光施設の開発等のため投下した資本の短期回収の手段として別荘地の造成と販売を重視し、被告との協議に基づいて作成された開発基本計画書においては、開発予定地域(稲倉嶽地区一〇〇万坪を含む)三二二万四五三三坪の内五〇万坪を別荘造成地として予定し、契約書中においても分譲別荘地の造成による顧客の誘致を優先開発事業として規定していること、

以上のとおりであり、右認定の事実に<証拠>及び前判示二項、三項で認定した事実を綜合すると、別荘地の造成販売は、顧客の誘致、投下資本の回収の観点より、レジャー観光施設の開設と相まつて鳥海山西麓地区における綜合開発計画の重要な事業部門を形成するものであつて、被告もこれを認識しており、右開発事業計画中、国定公園内の特別地域における別荘地の造成分譲のための開発行為につき、県知事による許可を得る見込のないことが確定的となつたため、鳥海山西麓地区の綜合的な開発事業計画の遂行に重大な支障を来し、原告らによる第一、第二、第五物件買収の目的を達することが不可能ないし著しく困難となつたものと認めるのを相当とし、<証拠>中右の認定に反する部分は採用し得ない。

2 被告は本件各売買契約は、原告トーカンにつき、ボーリング場、スキー場、サイクリングロード、テニスコート、ゴルフ場、観光ホテル等のレジャー施設の開発を主目的とし、原告三博につき観光牧場の開発事業を行うことのみを目的とするものである旨主張するのであるが、原告トーカンによる第一、第二物件の買収と原告三博による第五物件の買収とは、鳥海山西麓地区の綜合的な開発事業計画の面から不可分一体をなすものと考えるべきことは前判示のとおりであり、原告トーカンによる開発事業と無関係に、原告三博について観光牧場のみの開発事業計画の成否を論ずることは相当でなく、第一、第二、第五物件における観光牧場、レジャー、スポーツ施設の開設と別荘地の造成は、相まつて綜合開発計画の重要な事業部門を形成するとみるべきであることは前判示のとおりである。

3 以上の次第で、第一、第二物件中、本郷地区、小滝・霊峰地区、関・中の沢地区における別荘地造成のための開発行為につき、秋田県知事の許可を得られる見込みのないことが確定的となり、鳥海山西麓地区の綜合的な開発事業の遂行に重大な支障を来し、その結果土地買収の目的を達することが不可能または著しく困難となつたことにより、原告らはこれを理由に第一、第二、第六物件(第五物件)についての本件売買契約を解除し得るものとみるべきである。

五そこで、被告の原告トーカンに対する抗弁について判断する。<証拠>を総合すると、被告は、前記秋田県知事の回答により別荘地造成事業の開発許可が得られないことが確定的となつたことから、これに対処するため、昭和四九年一月一七日原告トーカンに対し、被告において秋田県由利郡象潟町小滝地区の国定公園外の適当な代替地をとりまとめ、これを同原告が被告から買受けた土地のうち同町本郷字所持谷地及び同町本郷字藤島台の土地(第一物件番号19ないし、22、28ないし36)と等価で交換することを申入れ、右交換により提供する代替地としては上郷財産区及び私人の所有地約七万四、〇〇〇坪を提示したこと、同原告は被告の右申出に基づき、同年四月被告との間に同年一月一七日付で覚書(甲第七号証)を作成したが、右覚書中(五)項として、被告が右の申出を具体的に実施することを前提として、同原告は本件象潟契約書九条5項及び一二条に原則的に抵触しないものと了解した趣旨の記載のあること、ところが被告の提示した代替地は第三者の所有に属し、右覚書作成時には所有者らと交渉中で、その承諾が得られるか否か、未確定の状態にあり、その後所有者らから同原告に対し交換によらず高価格による買収の要求が出されたため交換の話は行きづまりを来したこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定の事実に<証拠>を併せ考えると、当事者間に作成された右覚書は、別荘地の造成について県知事の許可を得られないことが確定的となり、本件開発事業計画の推進に重大な支障を来したため、その事態を解決する方策について協議した結果を記載した文書に過ぎず、覚書(五)項の趣旨も、被告から覚書記載の方法により代替地の提供があり、これにより売買の目的を達することができれば、売買契約中の約定に基づく解除権の行使をしない旨の当然の事理を表明したに止まり、右覚書の内容は当事者間に法的拘束力を有する程度の合意としての性質を有するものではなく、これをもつて原告トーカンによる解除権の放棄があつたものとみることはできないから被告の抗弁はその理由がない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく原告らの前記解除は有効である。

六そこで解除を理由とする被告の原状回復義務について検討する。

請求原因7項(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。そして原告らから被告に対し請求原因4項記載のとおりの金員の支払があつたことは当事者間に争いがない。

そうすると被告は原状回復義務の履行として原告トーカンに対し、同原告において別紙抵当権目録(一)記載の各登記を抹消し、第一、第二物件につき、被告名義に所有権移転登記手続をなすのと引換えに別紙土地代金目録(一)番号1ないし6記載の各金員の合計二億八六一四万一五四四円及び右の各金員に対し同表記載の各支払年月日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による利息金の、原告三博に対しては別紙抵当権等目録(二)記載の各登記を抹消し、第六物件につき被告名義に所有権移転登記手続をなすのと引換えに別紙土地代金目録(二)番号1ないし5記載の各金員の合計一億一二五八万〇九三二円及び右の各金員に対し同表記載の各支払年月日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による利息金の支払義務を負担するものというべきである。

七次に解除を理由とする損害補償の請求について判断する。

1 原告らは、本件各売買契約中県知事の許可を受けることが被告の責任とされていることを根拠に、右許可の得られない場合においては、被告は原告らの損害を補償することについての特約が存したものとみるべきである旨主張するので検討するに、本件各売買契約の約定中、契約用地のうち国定公園の指定を受けている用地については被告の責任において国定公園の開発許可を得ることがこの契約目的を達成する為の必須要件であることを確認し、開発許可の得られないときは原告らにおいて契約の一部若しくは全部を解約できる旨の約定の存することは前記当事者間に争いのない事実として確定したとおりであるが、開発行為の許否は、県知事の裁量権の範囲に属し、本来右許可のあることについて被告が責任を負担する筋合のものではなく、右の規定は単に原告らが開発行為をなすにあたり、開発許可が得られるよう努力することを定めた以上に、開発許可が得られない場合の原告らの損害を被告が担保する趣旨を含むものと解することはできず、却つて<証拠>によれば売買契約の当事者の一方がこの契約の解除をしようとするときまたは一方の違約により相手方がこの契約を解除するときは、民法の定めに従い契約手付金相当額を違約者に支払わなければならないと規定しながら、その但書において県知事の許可の得られないことを理由とする解除については、右規定の適用を除外し、解除の場合における損害賠償の要否については特段の規定は置かれていないことが認められる。

2 さらに原告らは本件売買契約中、狭少の未開発部分につき知事の許可の得られないことを理由に契約を解除したときには契約当事者はこれによつて被つた損害は各自の負担とし、単に原状回復義務を負担するに止まることの特約が存し、本件の如く全部について許可の得られない場合は当然損害を補償すべきである旨主張し、<証拠>中には右の主張にそう供述が存するのであるが、およそ国定公園内の特別地域においては、知事の許可の得られない限り開発に着手し得ないのであるから、一二条にいう未開発部分とは、許可が得られないため開発行為に着手していない部分と解するのを相当とし、同条は未開発部分の解除の場合に当事者の負担する原状回復義務の履行について、その履行に要する費用を各自の負担とすることを規定したに止まり、未開発部分を狭少な未開発部分に限定して解釈すべき合理的な根拠に欠け、右<証拠>は措信できず、他に本件開発が許可にならなかつた場合に原告らが被るべき損害を被告において担保したことを認めるに足りる証拠はない。

従つて、被告は原告らに対し、解除による原状回復義務を負うにとどまるものというべきである。

八以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、原告トーカンにつき、被告に対し、同原告において第一、第二物件の土地三七筆につき別紙抵当権等目録(一)記載の抵当権設定登記並びに根抵当権設定登記及び同変更登記を抹消したうえ被告に真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をするのと引換えに、二億八六一四万一五四四円及び別紙土地代金目録(一)「金額」欄記載の各金員に対する同目録各「支払年月日」欄記載の日以降支払いずみまでそれぞれ商事法定利率年六分の割合による利息の支払いを求め、原告三博につき被告に対し同原告において第六物件の土地一九筆につき別紙抵当権等目録(二)記載の抵当権及び根抵当権各設定登記を抹消したうえ被告に眞正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をするのと引換えに一億一二五八万〇九三二円及び別紙土地代金目録(二)「金額」欄記載の各金員に対する同目録各「支払年月日」欄記載の日以降支払いずみまでそれぞれ商事法定利率の年六分の割合による利息の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言の申立についてはその必要がないものと認めてこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(名越昭彦 鈴木健太 金谷暁)

物件目録(一)〜(六)<省略>

土地代金目録(一)、(二)<省略>

損害金目録(一)、(二)<省略>

抵当権等目録(一)、(二)<省略>

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